産業キャリア教育プログラム~授業紹介~

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【技術論2】凸版印刷 第1回「画像および映像処理技術への感性面からのアプローチ」

講師:凸版印刷株式会社 総合研究所 情報技術研究所 小川恵司氏 / 郭素梅氏

今回より凸版印刷株式会社に講義して頂きます。社会の情報化がさらに進むなかで、凸版印刷が更なる展開に向けて行っている施策を基に講義をして頂きます。

1回目は「技術」、2・3回目は様々な技術からなる「サービス」、4回目はサービスがユーザの要求を満たすための「マーケティング」、についてのお話になります。どれも「モノ作り」には重要な要素で、各要素における「モノ作り」の視点・アプローチは違うと思います。この違いにも注目して講義を聴くと面白いのではないでしょうか。各要素がうまく連動・協調するためにどうすればいいのでしょうか。

1回目:
施策「差別化技術によるシェアの拡大 → 固有技術の深耕」
講義「画像および映像処理技術への感性面からのアプローチ」

2回目:
施策「事業領域の拡大」 → 新しいメディアへの挑戦」
講義「文化遺産を対象としたバーチャルリアリティ」(訪問見学)

3回目:
施策「事業領域の拡大」
講義「ネット連動型DVD」

4回目:
施策「得意先の囲い込み → 付加価値の創出」
講義「得意先の課題解決のためのマーケティング支援」

■凸版印刷 講義の流れ

はじめに、小川恵司さん(総合研究所、情報技術研究所 所長)に会社紹介を含め、講義全体の流れについて話して頂きました。

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まずは、凸版印刷の事業領域についてです。
印刷と聴いて、すぐにイメージできる本やカタログといった紙への印刷は減少傾向にあるそうです。コンテンツのデジタル化に伴った事業展開がホームページでも紹介されています。見てみると「こんな事もやっているのかぁ」と事業範囲の広さに驚くと思います。


■第1回講師 郭先生

第1回講師は、中国出身、北京理工大学を経て、凸版印刷で「電子透かし」や「映像の感性評価」の研究開発に携わっている郭(グオ)さん(情報技術研究所)です。

外国の方が日本の企業でどのように活躍しているか、お互いの違い・強みを活かしてどのように共にうまく仕事をしていけるか考えるきっかけと与えてくれました。

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■第1回講義 「画像の電子透かし及び画質評価」

凸版印刷の1回目は「画像の電子透かし及び画質評価」です。

講義では次の3点について取り上げて話して頂きました。
1. 画像の電子透かし
2. デジタル画像の画質評価
3. 映像の感性評価について

基礎知識として、統計分析、行列演算、信号の各種変換(フーリエ変換、ウェーブレット変換、コサイン変換)、情報理論、暗号などが出てきました。大学の講義で聞いたことのあるような内容も出てきて、こういった基礎知識がどこにどのように使われているかについて,今まで具体的にイメージできなかった学生もいるかと思います。実際にこのような知識・技術がどのように使われているか知り、使ってみることで知識・技術は定着します。この講義で体感できたのではないでしょうか。


■画像の電子透かし

まず、デジタル画像について話していただきました。
以下の3つの過程が、画像(グレースケールの場合)のデジタル化に必要だそうです。
・走査:画像領域内の特定の位置を選択的に指し示す。
・標本化:各画素の位置で画像のグレースケールを計測する。
・量子化:計測された各画素の値を整数の数値によって表現する。
これらの過程により配列g(m,n)という数値表現(デジタル化)がなされるそうです。

20080701_3.jpg

話しはそれますが、注目すべきは、それぞれの過程でアナログな実物をデジタル画像として、何をどのぐらい詳細に表現・計測するか変更できる点だと思います。
私たちがデジタル画像を見ているときと、実物を見たときでは、得ている情報が異なります。デジタル化により欠ける情報、それが私たちに与える影響はどこにどのくらい生じるのでしょうか?「うそっぽいと感じるCGと、今にも動き出しそうと感じるリアルなCG」の違いはどこにあるのでしょうか。

以上を解き明かし、デジタル化技術が発展することにより、実際に実物を見たときの感覚を再現できるようになると迫力のある映画を楽しめたり、医療に活かされたりと生活が豊かになっていくのだと北川は考えています。単にデジタル化といっても奥が深い!


■電子透かし

次に、「電子透かし」について話して頂きました。

「電子透かし」とは、マルチメディアデータに埋め込む、人に知覚できない信号です。
電子透かしでは主に以下の3点が求められます。
 ・電子透かしの埋め込みによるデータの劣化を人が知覚できないこと
  (視覚特性を利用:階調分解、エッジ強調、周波数分解など)
 ・安全性と信頼性がシステムに保てること
 ・耐性があること(悪質な行為を防ぐ)
著作権保護・管理、偽造抑止・防止、機密情報伝達、フィッシング詐欺対策などに有用です。

しかし、インターネットを利用していると、著作権を侵害していそうなコンテンツが多数目に付きます。そうしたコンテンツに対して、現在は問題解決・普及してきており実際に、電子透かしにより不正コピーを見つけた例も数年前から出てきています。
【参考】電子透かしで御用に

また、電子透かし技術も悪用される現実もあることに注意が必要です。現実では当り前のモラルを持ってネットに接することを忘れてはいけないと思います。
【参考】Nikkei BP net 「迷惑メール業者が世の中に先んじて“電子透かし”を使う皮肉な現状


■印刷物に対応した電子透かしの研究・開発

凸版印刷では、印刷物の複製にも対応した電子透かしの研究・開発を行っているそうです。事例として、IDカードの顔写真への利用について話していただきました。

idcard_toppan.jpg
(C) 2002 TOPPAN PRINTING CO.,LTD.

ここでの課題としては、主に以下のようなものがあるそうです。
 ・色変換:画像の出力(印刷機)と入力(スキャナーやデジタルカメラなど)機器による色の扱いの違い(カラースペース)
 ・ノイズ・色変化:経年変化、傷、ノイズ、など
 ・幾何学的変形:倍率、回転、一部切り取り、など

このような技術が、悪質な行為への抑止力となれば良いですね!


■デジタル画像の画質評価

デジタル画像の画質評価について話して頂きました。
大きく分けて、主観評価法と客観評価法に分かれるそうです。それぞれの代表的手法やその特徴について話して頂きました。
 ・主観評価法
  人間の目で実際に見て評価をする。
 ・客観評価法
  機器で自動的に評価値を計算する。

主観評価法では、複数の人間が直接品質を評価するのでエンドユーザの感覚と直結しています。しかし、コストと時間が必要であるうえ、同じ画像に対して常に同じ評価がされる保証はないそうです。
客観評価法では、逆にコストや時間の低減、同じ評価の保証はなされますが、エンドユーザの感覚と直結していない場合があるそうです。

ここで注意すべき点は、標準的な客観評価方法が決まっていない点です。
また,主観評価の信頼性は、評価関係者や評価者数に依存するため、評価資料を見るときは誰が評価しているのか、どんな評価分析手法により評価を行っているのかを抑えておく必要があるそうです。


■映像の感性評価について

さらに、映像の感性評価について話して頂きました。
感性評価では、利用者によって異なる好みや知識や状況といった多様性に着目し、一人ひとりの評価基準を基に評価しているそうです。
これより、その人の好みに合わせた映像コンテンツを提供する、環境に合わせた映像コンテンツを提供する、或は膨大な映像コンテンツの中からその人が求めるものを提供する、など活用出来るそうです。

感性評価にもその分析にも様々な手法があります。
・比較判断方法:サーストン法
・個人誤差、順序分析:シェッフェ法
・プロフィールによる分析:SD法
・因子分析、多次元尺度:SD法
・ファジィ:SD法

北川が所属する経営システム工学科、ヒューマンメディア工学研究室(加藤研究室)でもは、この感性を中心に研究をしています。感性について興味を持った方は気軽に見学に来てください。 


■さいごに

2008年6月に法務省が発表された以下の統計を紹介していただきました。
「平成19年末現在,外国人登録者数は,2,152,973人となり,過去最高を更新。我が国総人口の1.69パーセントを占める」この数字は思っていたより多かったのではないでしょうか?

また、以下のことを話していただきました。
・外国人には、慣習までも身についている方がいる一方、言葉がまだ流暢でない人も、やはりいること。
・日本人は言葉の誤りを指摘してくれない人が多いことについて

これについては、北川も日本人3人・留学生3人のチームで研究をしていた時期があり、体感しています。コミュニケーションがうまくできなかったのが原因で、納得のいく研究活動ができないこともありました。しかし、活動後半にはコミュニケーションがうまく取れていた同じ国の方にサポートしてもらうことでうまくいきました。外国の方は、私たちとは異なる視点・考え方やスキルを持っており、お互い強みを生かし協力することは、チームにとても有益です。
積極的に話し掛ける・サポート(仲介者)を入れることで、ある程度のコミュニケーションの問題は解決できると思います。また、こうした経験は、逆に私たちが海外で仕事をするうえでも役立つと思います。
学生のみなさんには、クラスや研究室に配属されたとき留学生がいたら、積極的にコミュニケーションをとることをオススメします。

(2008.7.1 担当:北川)

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