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【技術論3】日立製作所 第2回「社会の情報化」

講師:株式会社日立製作所 システム開発研究所 本間弘一氏

本日の講師の本間先生は、前回の舩橋先生と同じく、日立製作所システム開発研究所に所属されています。20年間システム開発の現場に近いところで研究開発に携わりながら社会の情報化の進展を見つめてこられました。本日は、その20年間のご勤務における豊かな経験を交えながら、如何に社会が情報化していったのか、今現在進行中のユビキタス社会とはどのようなものなのか、実際に技術はどこまで進化して、何がまだ課題なのかを御教授いただきました。その一部を掲載いたします。

1. 情報化とは何か
2. 企業情報システムの変遷
3. ユビキタス情報化社会へ
4. システムが普及する時、しない時

1.情報化とは何か

現在、コンピュータ、ネットワーク、モバイル等の普及により社会の情報化が進んでいますが、コンピュータの発明以前にも社会の情報化は進んでいました。印刷技術、電信技術なども情報化です。では、そもそも情報とはどのようなもので、何時この世に誕生したのでしょうか。

情報が生まれたのは何時か、という問いは情報技術の観点からだけでは回答を得られるものではなく、社会科学の分野(たとえば「基礎情報学」)になります。厳密に言えば、情報は生物が(人間がではない!)誕生したときに生まれたと考えられています。生まれたばかりの地球は、エネルギー、物質のみの世界です。ここには情報が存在しません。しかし、誕生したばかりの生物は、非常に単純な作りであっても、DNAという情報を持っています。また、細胞の移動や分裂に情報を利用しています。

 やがて生物は進化していきます。神経が誕生すれば、情報は高速に伝わり、行動に緻密さが増していきます。情報は、伝送、蓄積、処理すべての面において進化していきます。人間が誕生すると、情報の進化は新しい局面を迎えます。その要因は、言葉と文字の発明にあります。情報化は地球の進化であり、生命体の進化で、究極の知能生命体である人間の文明の進化でもあります。
 勿論、一般的に社会の情報化というときの情報は、IT技術に関連した情報であり、この講義における情報も同様です。情報というものを広義に捉える柔軟な思考の重要さを感じ取れたお話でしたが、それから次はIT技術に的を絞って、その発達についてのご教示を承りました。

IT最近5年間の進展はそれまでと比べても非常に激しい進展がありました。インターネットユーザーの数は爆発的に増加し、インターネットは一般の人々の生活になくてはならないものになりました。日本国内のWEBデータ量の増加は非常に急激です。最近は音声・動画データ量が大量に増加しています。情報技術進歩の法則として、有名なものが3つあります。3つとも今までのところ法則どおりに進行しています。

1)ムーアの法則(半導体集積密度)
『CPU(演算処理装置)性能は18ヶ月で倍増する』、『半導体メモリも同様』
今までのところ、データで見ると、半導体の集積密度は実際、18~24ヶ月で倍増してきています。これは15年で3桁増えてきたことになります。

2)磁気ディスク記録密度向上の法則
『磁気記録密度は12ヶ月で2倍になる』
垂直磁気技術により100ギガビット/inch²級が実現されました。更なる磁気記録密度向上を目指した技術開発競争が行われています。

3)ギルダーの法則
『ネットワークの性能(帯域)は9ヶ月で2倍になる』
ITによる社会の情報化の基底には、このようなハードウェアに関する指数関数的な性能向上があることを忘れてはいけません。

2.企業情報システムの変遷

1970年代から80年代、90年代と、それぞれの時代で、技術の進歩と時代の要請を受け、情報化は進んできました。その間に本間先生がどのようなシステム開発の経験をされてきたかを通じて、企業情報システムの変遷を教えていただきました。現場に携わってきた方の経験を肌で感じることで、より具体的に理解することができたと思います。

1)LANDSAT地上局画像処理システム
システムの目的 受信した地球観測画像の幾何的強度的補正、配布
構成と規模 制御用ミニコン+専用プロセッサ(12Mflops)etc.
従事内容 高精度アルゴリズム研究、高性能プログラム実装

2)百貨店商品管理システム
システムの目的 商品単品の売り上げ在庫把握による仕入れ販売力強化
構成と規模 大型汎用コンピュータ
従事内容 システム開発上流工程参画(業務分析、商品コード体系、売上げ予測アルゴリズム、etc.)

3)JR東京圏管理システム
システムの目的 ダイヤベースの自動進路制御、駅業務合理化、乱れ回復力UP他

4)電子乗車券のID管理システム
システムの目的電子乗車券1枚ごとの残高管理(不正防止、再発行サービス)
※このシステムは電子マネーやお財布携帯など、急速に開発が進んでいる分野です。更なる発展も期待できると言われています。

重要な企業情報システム機能としては、他にもサプライチェーンマネジメントや、カスタマリレイションシップマネジメントなどがあげられます。ただし、情報システムはどのような機関・企業でも重要になっています。官公庁、自治体などにしても、金融、製造を始めとするあらゆる業種の民間企業にしても、情報システムの構築、保守、運用は重要な問題です。

 最近の情報システム構築のプロジェクトマネジメント的課題としては、次の3つが挙げられます。①要求合意手法の適用、②国際標準プロジェクトマネジメント手法の適用、③ソフトを作らないで済ますシステム構築、WEBサービスの普及、です。

3.ユビキタス情報社会へ

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さて、過去の経緯の次は、情報化の現在と未来です。ここ数年、「ユビキタス」という言葉が定着しました。このユビキタス情報社会こそ現在から未来へと進行中の社会の情報化です。ユビキタスという言葉は、ラテン語ubiquitasを語源とする英語ubiquitousです。これは「同時に至る所にある、遍在する」という意味の形容詞です。
ユビキタスコンピューティングとは、ゼロックス社バロアルト研究所主管技師マーク・ワイザーが、まるで空気のように情報通信技術が日常生活に溶け込んで、ITを利用しているという意識を持たずに常にIT技術を活用している高度情報化社会を表現した言葉です。ユビキタス情報社会において特に重要な技術は、①RFID(小型電子タグ)②センサネットワーク③携帯連携④個人認証とプライバシー保護です。

RFID(小型電子タグ)とは、電磁誘導コイル内蔵の微小なICチップで、紙や物に貼り付け、無線により電力供給と通信を行うことにより、付与した固有のIDを読み取ろうとするものです。これにより、実空間の紙や物と、サイバー空間すなわち、インターネット上の情報を対応付けることができるというものです。ミューチップ(世界最小非接触型ICチップ)を用いたさまざまな実験がすでに行われています。具体的な例としては、生産者情報や流通履歴、認証情報をミューチップに入力し、これをラベルに付与し、ラベルを米袋に貼るというようなものがあります。国際コンテナ輸送における生産物流への電子タグ活用実験、医薬品情報を記載した電子タグ活用実験も行われています。このRFID(小型電子タグ)は、日本政府も経済波及効果を見込んで重要視している技術です。今後の普及が期待されます。

本日はここで時間の都合上終了となりました。次回は、センサネットワーク、携帯連携、個人認証とプライバシー保護といった、そのほかの重要なユビキタス社会の構成要素となる技術についてお話があります。

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授業後には、質問にいく学生たち。

(2008.5.8 担当K)

  • 日立製作所 第1回「情報システムの技術の動向(概論1)」
  • 日立製作所 第2回「社会の情報化」
  • 日立製作所 第3回「社会の情報化」
  • 日立製作所 第4回「情報システムの技術の動向(概論2)」

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