TQMの標準化

l         TQMの発展

日本やアメリカで成果を挙げている総合的品質管理(TQM:Total Quality Management、またはTQC:Total Quality Control)は、第二次世界大戦直後の日本で大きく発展した。この時期における日本の最大の命題は、経済の復興を通じて生活水準を向上させることにあった。資源の乏しい日本がこの目的を達成させるためには、輸出を増やすことが不可欠の条件であり、「安かろう悪かろう」という戦前の日本製品に対するイメージを払拭することが大きな課題となった。このような状況の中、品質管理の普及を図るための組織として1945年に(財)日本規格協会が、1946年に(財)日本科学技術連盟が設立された。

 

1950年7月には、アメリカにおける品質管理推進の第一人者であった故E・W・デミング博士が来日し、「品質管理8日間コース」などを通じて統計的品質管理の指導を行った。この指導は、デミング・サイクル(PDCAのサイクル)を初めとして誕生期にあった日本のTQMに大きな刺激を与えた。また、1954年にはマネジメントの面で高名であったアメリカの品質管理コンサルタント、J・M・ジュラン博士が来日し、パレート図による重要度分析、散発不良と慢性不良の区別、管理点の選定問題など管理者または経営者としての品質管理の実践方法を紹介した。日本のTQMはこれを契機に統計的品質管理から現場の管理手法へと発展していった。1950年代の後半から60年代前半にかけて、「管理項目一覧表」、「工程能力調査」、「初期流動管理」、「協力工場の品質管理」、「方針管理」、「機能別管理」などTQMの重要な考え方が生み出された。QCサークル活動が組織化されたのもこのころである。

 

1960年代後半になるとTQMは源流管理の考え方に基づいて製造現場からその上流工程である製造から設計、企画、販売へと広がっていった。「品質機能展開」、「FMEA等の信頼性技法の活用」、「デザイン・レビュー」、「新QC7つ道具」など顧客ニーズの把握から設計管理までのプロセスを支援するための多くの方法論が生み出された。このような中で、多くの企業がTQMに取り組み、その結果として、製品の品質を飛躍的に向上させ、世界的に認められる優良企業に成長していった。

 

1970年代になると日本で発展したTQMはアメリカを中心に全世界に広がりはじめた。デミング賞を見本として、アメリカではマルコム・ボードリジ賞が、欧州ではヨーロッパ品質賞が設立され、多くの企業が品質管理に取り組み、成果をあげるようになった。業種も組立産業・プロセス産業のような製造業にとどまらず、ソフトウェア産業、サービス産業においてもその考え方・方法論が活用されるようになっている。

 

l        TQM標準化調査研究委員会WG1

大きな発展をとげ、あらゆる分野で活用されているTQMであるが、反面、その適用範囲が広がるにつれて活動の形態が多様化し、その本質や全体像を理解することが困難となりつつある。

 

このような現状を受けて、TQM標準化調査研究委員会(現、品質マネジメントシステム規格検討委員会)のWG1では、自動車部品、電機、医療機器、航空宇宙、建築、ソフトウェア、電力、通信、医療、ホテルの10分野におけるTQMの実施状況について調査し、TQMに関わる様々な活動やツールを経営における役割という視点から整理・統合することを試みた。下図は、最終的に得られた、経営における「TQMの機能」とその関連を示したものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


この図を見ると、中央の「変革・改善を推進する」という要素が、@戦略を実践し、A顧客価値を創造し、B組織のパーフォーマンスを向上させ、Cベストプラクティスを実践し、D経営基盤を充実させる上での中核となっていることがわかる。各々の機能と関連する「活動要素」および「支援技術」については添付の表を参照して頂きたい。なお、この表には、顧客重視等のTQMの原理との対応も示してある。

 

TQMの原理   :基本となる考え方
TQMの機能   :組織を経営する上でTQMが果たす目的・ねらい
TQMの活動要素:目的・ねらいを達成するためのひとまとまりの組織としての行動
TQMの支援技術:活動を効果的・効率的に進めるために有効なツール

 

表:TQMの原理、経営における機能、活動要素、支援技術の関連表
付表1:10分野における経営におけるTQMの機能と活動要素
付表2:TQMの原理の説明
付表3:TQMの活動要素の説明
付表4:TQMの支援技術の説明