[中央大学理工学部経営システム工学科:ヒューマンメディア工学]

 

ヒューマンメディア工学

 

 

2004年度前期 ヒューマンメディア工学 目次

 

1.      講義の背景

2.      講義の内容

3.      講義の進め方

4.      講義日程

5.      講義資料・参考資料

 

 

1 講義の背景

(1)急速に進化する「情報通信環境」

 皆さんが大学で学んでいる間、また、社会に歩み出して行く間に、この国は、そして世界は大きなターニングポイントを迎えています。

 例えば、「コミュニケーション」を例に挙げて見ましょう。

 1990年には、一部のビジネスマンがポケベルを利用する程度でした。

1995年には、ポケベルは女子高生のコミュニケーションツールに変わって、主たる利用の場面もビジネスから友達の間のコミュニケーションに変化しました。同時期、携帯電話の利用者は、まだまだ10%台で少数の人達が使う物という認識でした。

その後、携帯電話の利用者は急速に増え、2000年には、我国では、携帯電話の利用者数は固定電話の数を超えました。またこの年には、インターネットや情報端末の利用者は17%のクリティカルマスを超えたと言われています。

そして21世紀を迎えて、我国や世界のモバイル情報通信技術は、産業やビジネスの場面だけではなく、日常生活のあらゆる場面に急速に浸透してきました。今では、平均して6070%の人が携帯電話の利用者です。

皆さんが大学を卒業して(見習いの期間を終えて)社会で活躍し始めるころ(2005年〜2010年頃)には、70%以上の人が、第3世代以降の携帯電話とサービスを利用していると考えられています。そして、それ以降も世界的にインターネットや携帯情報端末の利用者層が拡大して、誰もが使う日常生活の「あたりまえの道具(=情報家電)」になるでしょう(或いは「あたりまえの道具になること」を産業界は強く期待しています)。

 

 「情報機器・情報サービス」という概念も大きく変わりつつあります。

 コンピュータが産業に使われだした(→「オートメーション」など)1960年代以降、超高速の数値計算や大規模データベースを利用した情報サービスは、大型計算機とその端末群という情報システムの「イメージ」を形作っていました。

しかし、1980年代後半以降のダウンサイジングを通じて、高価な大型計算機は次々とパソコンクラスの計算機に席を譲り、データの整備が大変な大規模データベースもインターネット上のウェッブにとって替わられるようになりました。

そして今日では、普通の人々が最初に触れる「情報機器・情報サービス」は携帯電話です。携帯電話を「声を伝える」電話機としてのみ使う人はむしろ少数派になりつつあります。モバイルインターネットを通して種々のサービスを受ける、あるいは、自ら情報を発するための身近であたりまえの道具として使われつつあるのです。

さらに近い将来には、人間が生活する環境の中に埋め込まれた多数のチップ(CPU、メモリ、通信装置)を意識することなく使うようになるでしょう。利用者が「道具」すら意識しないでも使いこなせるような「情報サービス・情報システム」の新しいパラダイムが必要となってきているのです。

 

(2)21世紀のメガトレンド

 このように急速に変化・進化する高度情報社会の「未来」を見据えて、あれこれの表層的な現象に惑わされずに、また、現象の後追いではなく、時代をリードして、本筋の技術開発・製品開発・サービスの提供を行っていくためには、どのような「能力」が必要でしょうか?

 日々、ニュース解説に目を通しておく?技術系の商業誌(日経エレクトロニクスなど)の特集記事を押えておく?少し難しいけど、学術的な学会の技術動向解説を勉強する?答えの一部(必要条件)ではあるけれど、すべて(十分条件)ではありません。

 21世紀、この国は、世界は、そして社会はどのような状態になっていくのか?それに対して、自分としては、どういう状態が望ましいと考えるのか?では、「現状」「(未来の)現状」を「自分が望む状態」にするためには、何が必要なのか?そのために、自分は何ができるのか?

 このようなセンスでメガトレンドを読み、自分としての考え・アイデアを世の中に向けて発信し、さらにはそれを技術・製品・サービスの形で具体化することが、必要な「能力」です。いわば、未来の姿を予想するのではなく、未来の姿を自ら設計し、提案し、現実のものにしていくこと。これが時代を拓くキーパーソンとなるための「能力」です。

 

(3)高度情報社会を支える主役は誰?

 情報工学を専攻した人達?これも答えの一部ではありますが、全てではありません。「高度情報時代のグランドデザインを行い、また、それを具体的な応用の場で実現」するには、

l         広く横断的に、様々な産業やマーケットをシステムとしてとらえ、最も合理的・効率的に動くメカニズムをデザインし、

l         同時に、そこで働く人々や多様な消費者という、「人間」に目をむけた「人間や環境に優しい技術」の視点を持ち、

l         具体的な産業や応用分野で役立つ、実践的な情報処理技術に裏打ちされた問題解決能力を身に付けた人

こそ、高度情報化社会をリードし、また、支える人材として期待されているのです。

 これはまさに、「管理工学」が歩んできた道であり「経営システム工学」が新たな発展を目指そうとしている方向です。時代は「あなた」を待っているのです!! (ちょっと持ち上げ過ぎかな?(^^;)

 

補足1 クリティカルマス

マーケティングの世界では「人口の17%がクリティカルマス」と言われている。クリティカルマスを超えると、一部の社会的現象や一過性の流行ではなく、急速に社会に定着する。かつては、ラジオ、テレビ、電話もこのような道をたどってきた。現在は、携帯電話がクリティカルマスを超えた。一方、Push Phoneによる計算サービスやCAPTAIN、ポケベルのように、クリティカルマスを超えられずに消えていったものも多い。

 

補足2 21世紀のメガトレンド

 では、21世紀のメガトレンドとは何か? 答えはみなさん自分自身で発見してください。講義ではその「ヒント」を紹介します。

 

2 講義の内容

高度情報化社会を支えるマルチメディア情報技術の重要な柱であるヒューマンインタフェースの問題を取り上げ、情報機器や情報サービスを、一人ひとりの利用者に使いやすい形で実現し提供するための方法論を学習する。本講義では、

ヒューマンメディア工学の基礎となる感性メディア技術(感性工学と感性情報処理など)

知識メディア技術(知識ベースやマルチメディアデータベースなど)

体感メディア技術(仮想現実技術、バーチャルリアリティなど)

の基本的な考え方と方法論を学ぶ。また、できるだけ最新の技術・最新の研究成果に触れられるような機会を用意したい。

また、「頭でヒューマンメディア技術を考える」のではなく、具体的なニーズを持った利用者の観点から「体でヒューマンメディア技術を考える」ために、時間をとって「演習」にも取り組む。但し、正解があるとは限らない。皆さんの「回答=考え」をお互いに比較検討して、広い視野から問題をとらえ、分析し、解決する能力を磨く。

 

 講義と並行して、高度情報時代の「人にやさしい技術」のあるべき姿を考察し、グランドデザインに取り組んで戴く。下記のような「研究テーマ」を各自選び、現在の技術水準からの技術予測という観点だけでなく、どのようなサービスが求められるようになるのか、その裏付けとしてどのような技術が必要になるのかを、調査・考察すると共に、具体的な情報サービスのデザイン、つまり、「企画書」の作成を試みる。

題材の例:

l         「人にやさしい技術」とこれからの情報環境、複合情報通信環境(インターネット+モバイル+ユビキタス)

l         「人にやさしい技術」とセキュリティ

l         「人にやさしい技術」と情報洪水

l         「人にやさしい技術」と消費者(利用者)のプライバシー

l         「人にやさしい技術」と消費者(利用者)の感性

l         「人にやさしい技術」とコミュニケーションギャップ、デジタルデバイドの解消

l         「人にやさしい技術」と高度情報社会の市民生活

l         「人にやさしい技術」と図書館・美術館・博物館

l         「人にやさしい技術」と教育・学習のスタイルの変化、これからの学校の役割

l         「人にやさしい技術」と高齢者・家庭婦人・身障者の社会参加

l         「人にやさしい技術」と新しいビジネスの可能性

l         「人にやさしい技術」と物流と情報流

l         その他の自由課題

 

3 講義の進め方

「一方向的な喋りっぱなし・聞きっぱなし」は楽しくないので、実際に手と口と少しばかり頭を働かせて、インタラクティブな「講義」を進めたい。そのために、

l         毎回の講義では、情報サービスシステムの現状や課題について、加藤の考えなどを説明する。

l         体験的に理解を深めるための「演習」に取り組んでいただく(講義の時間に行います)。

l         「近未来の技術」「現在の研究開発」を実感するため、最先端の研究開発を担当している本人から、研究の紹介を行ってもらいます。

l         講義と並行して、「研究テーマ」に取り組んでレポートとして提出して戴きます(2〜3回)。「研究テーマ」には、時間をかけてジックリと取り組んでください!

 

4 講義日程(仮)

 

講義日程

テーマ

4月12日

オリエンテーション   ヒューマンメディアとは? 課題

4月19日

情報・メディア・ヒューマンコミュニケーション 課題

4月26日

(続) 課題

5月10日

感性の工学的モデル化 課題

5月17日

(続) 課題

5月 24日

物理レベル, 生理レベルの感性 課題

5月 31日

心理レベル, 認知レベルの感性
 応用事例「感性工房」 課題

6月7日

知識ベースとデータベース 課題

6月14日

レポート課題説明 レポート課題
知識メディアとオントロジー 課題
応用事例「次世代プラントインタフェース」

6月 21日

知識メディア技術のまとめにかえて

仮想メディア技術 課題

6月28日

応用事例

7月 5日

レポート課題(プレゼン)についての補足説明 資料
仮想メディア技術 VR+AR=MR 課題
応用事例「多人数参加型都市設計」

7月12日

最終発表会   「ヒューマンメディア機器・サービスの提案」
知識メディア技術の補足資料

 

5 講義資料・参考資料

(1)ウェッブ上の講義資料

l         加藤のホームページ http://www.indsys.chuo-u.ac.jp/~kato/

l         ヒューマンメディア工学 http://www.indsys.chuo-u.ac.jp/~kato/HM04/

l         ヒューマンメディア工学特論 http://www.indsys.chuo-u.ac.jp/~kato/HMadv04/

l         原則として、毎回の講義終了後に、資料をアップします。復習やより深い考察のために利用してください。

 

(2)教科書

l         長尾真、安西祐一郎、神岡太郎、橋本周司:マルチメディア情報学の基礎、岩波講座、マルチメディア情報学1、199910月、岩波書店。(3,400円)

l         西尾章治郎、田中克己、上原邦昭、有木康雄、加藤俊一、河野浩之:情報の構造化と検索、岩波講座、マルチメディア情報学8、20003月、岩波書店。(3,800円)

 

(3)参考書

l         岸野文郎、大野義夫、藤代一成、北村喜文:情報の可視化、マルチメディア情報学6、20013月、岩波書店。(3,800円)

l         西尾章治郎、大田友一、横田一正、西田豊明、佐藤哲司:情報の共有と統合、マルチメディア情報学7、199912月、岩波書店。(3,400円)

l         庄司裕子:遊びとおしゃれとヒューマンメディア、19996月、トッパン。(1,400円)

l         鈴木邁(監修)大澤光(編著)村上陽一郎、石井威望、西川泰夫、加藤俊一、黒須正明、今中武、田近伸和:感性工学と情報社会、200012月。森北出版。(2,400円)

l         田村秀行、池田克夫(編):知能情報メディア、199510月。総研出版。(4,000円)

l         野村淳二、澤田一哉(編著):バーチャルリアリティ、199711月。朝倉書店。(3,800円)